東洋大学のプレスリリース
新しい観光のパラダイム
「フランスにおけるサステナブル・ツーリズムの新しい視点
ー再生型観光戦略」
2022年10月11日から入国制限が緩和され、入国者総数の上限も撤廃され、双方向の国際交流が大きく動き出します。また、国内では県民割の全国受入開始も始まり、秋の旅行需要を勢いづける効果が期待されます。
東洋大学国際観光学部では、再スタートともいうべきこの時期をとらえ、「新しい観光のパラダイム」と題し、ツーリズム産業を前に進めるための手掛かりを示すコンテンツを連載で公開しています。テーマは「アドベンチャーツーリズム」「フランスにおける再生型観光戦略」「海外DMOのブランディングに学ぶ」「持続可能な地域づくりと観光」の4つです。東洋大学ではこれからも、変化に対応し、時代を切り拓ける人材を育成していきます。
フランスにおけるサステナブル・ツーリズムの歴史
サステナブル・ツーリズム(ST)とは「持続可能な観光」を意味し、地域の自然環境や文化、伝統などを守りながら、地域資源を持続的に保つことができるような旅行や観光業の取り組みであり、フランスにおけるSTには、100年を超える歴史がある。環境保護・教育の目的で1913年に指定された「べラルド公園」をはじめとし、1960年になると、国立公園と地方公園の整備が進み、11か所の国立公園のうち4か所が「欧州持続可能な観光憲章」に調印する。”VALEURS PARC NATIONAL REGIONAL”(公園内で持続可能な取り組みを行う業者に交付)という認定ラベルもある(フランス観光開発機構、2021)。
フランス政府は環境意識の高い欧州の旅行者の増加に対応するために、一層のSTを重視して気候変動対策・レジリエンス強化法を2021年に成立させた。当初の規制内容から後退した部分もある(JETRO,2021)が、環境負荷のより少ない鉄道やバスなど公共交通機関の利用を推奨し、BlaBlaCar(自家用車の乗り合い)などの交通アプリの利用も進む。
サステナブル・ツーリズムから再生型観光戦略へ
一方で、昨今はSTから地域をベースにした再生型観光戦略(regenerative tourism)への進展が注目されている。再生型観光戦略とは、観光によって地域を成長させるのではなく、喪失懸念のある地方の観光資源を守り、定着させていこうという取り組みで、特定地域に偏ったオーバーツーリズムの歯止めにもなるという考え方である(Nancy Duxburyら, Sustainability, 2021)。
再生型観光戦略は、EUの持続可能な文化観光の取り組み(2019)とも符合する。これは、有形・無形の文化遺産の保護とSTによる観光開発を実現するために、文化遺産と観光活動を地域社会と連携させて統合的に管理し、すべてのステークホルダーが社会・環境・経済の利益を享受するという考え方である。例えば、世界で最も美しい村連合会や最も美しい湾クラブのように、地域の優れた環境を個性として打ち出すことで地域の再生が進むのである。地域の人々と観光者が交流することを通じて、地域の観光資源が維持される。ガストロノミー(美食)ツーリズムが生まれたフランスは、全国各地に地域固有の食文化が根付き、マルシェで旬の食材を手に入れ、土地土地のワインと共に堪能することができる。再生型観光を通じて、フランス各地の魅力が益々磨かれることを期待したい。
佐々木茂
東洋大学国際観光学部 教授
専門分野:
マーケティング、流通システム、地域発国際戦略、国際観光交流
研究キーワード:
フランスの経済と文化事情、ニュージーランドの観光と農業、米国のまちづくり/地域発国際戦略(自治体)、地域ブランド、地域マーケティング/国際観光交流、観光まちづくり、社会起業家