新しい時代の旅は「余暇」から地域と価値を与え合う「与価」へ

株式会社TBWA HAKUHODOのプレスリリース

株式会社TBWA HAKUHODO(本社:東京都港区、代表取締役社長兼CEO:今井明彦、以下TBWA HAKUHODO)は、2020年から取り組んできた観光復興プロジェクトの取り組みの一つとして、株式会社JTB総合研究所(本社:東京都品川区、代表取締役社長執行役員:風間欣人、以下JTB総合研究所)と、コロナ禍によって新たに生まれた旅の兆しを具現化するプロジェクト「兆しツアー」の開発に取り組んでいます。

昨年11月には山形県最上地域で、ニューノーマルな旅に求められる「心地よさ」を具現化したツアーの実証実験を、同地域でまちおこしや移住推進に取り組む一般社団法人雪と暮らし舎の協力のもとで実施しました。その結果、従来の「余暇」を過ごす=余った暇を消費するだけでなく、「与価」=地域と価値を与え合うことで自分の“心地よい居場所”を見つける新しい形の旅が求められているとわかりました。これらの結果をまとめたレポート『新しい旅の「兆し」~心地よさの源泉を探る〜』を本日公開いたします。

・レポート『新しい旅の「兆し」 ~心地よさの源泉を探る~』:https://www.tourism.jp/store/item/whitepapers/signs-for-new-tourism/

・JTB総合研究所のリリースはこちらよりご覧ください。https://www.tourism.jp/news/2023/06/kizashi-tour-02/

■本プロジェクトの背景

本プロジェクトはTBWA HAKUHODOがこれまで行ってきた観光関連事業者や地方自治体への支援活動と、JTB総合研究所がこれまで行ってきた旅行・観光に関わる調査・研究と併せて新たな旅の価値を整理し、その具現化を通じて観光業界にとって新たな取り組みをはじめるヒントを与えていきたいと考え、開始しました。

2021年度の取り組みとして、TBWA HAKUHODOが取りまとめた『新しい時代に対応する観光復興ガイド』第三弾から見えた旅行意欲を高める兆しと、JTB総合研究所の自主研究『社会と旅行の未来への道標を探る』から見えた旅行者の価値観・意識の変化より共通点を見出しました。その結果、今後の社会における生活者の価値観変化のポイントの兆しとして、「よりよいこと(成長)」から、「より心地よいこと」が優先されることがわかり、旅行においても何度も訪れたくなる「心地よい居場所」を求めて旅をするという傾向がみられました。

・TBWA HAKUHODO『新しい時代に対応する観光復興ガイド』第三弾:

https://www.tbwahakuhodo.co.jp/uploads/2021/12/tourism-restoration-ver3_2022pdf.pdf

・JTB総合研究所『社会と旅行の未来への道標を探る』:

https://www.tourism.jp/store/item/whitepapers/future-of-society-and-tourism/

そこで昨年度は、まず「心地よさ」を具現化するための心理構造分析を行い、そこから導き出した仮説をもとにツアーを通した実証実験を実施しました。

2022年度の取り組み①「心地よさ」を具現化するための心理構造分析

昨年度は「心地よい居場所」を求めて旅をする傾向を踏まえ、旅行者が感じる「心地よさ」とはどういうものなのかをより具体化させるために、その心理構造分析を行い、さらにオンライン調査を実施しました。その結果、旅の「心地よさ」について次の結果を導き出しました。

【心理構造分析から見えたこと】

「心地よさ」を感じるために強い要素は以下であると考えられる。

<場所に求める要素>

新しい発見や刺激的な発見ができる/受け入れられることで長期的な関係性を築ける/ストレスなく過ごせる/ゆったりとした時間を過ごせる/既存の価値観にとらわれない/自分のテイストや価値観に合う

<人に求める要素>

自分のペースや価値観が尊重される/自分の思い通りに時間や空間を使える/新しい体験や成長を通じて達成感を得られる/存在意義を感じられる/匿名性が担保された関係性がある/ゆるく繋がれる

「心地よい場所」に求めることとして「長期的な関係性の構築」が重要である。

●「新しい発見がある」「刺激的な体験がある」「信頼関係を構築できる」要素を提供することで、地域と人との継続的なつながりを創出できる。

■2022年度の取り組み②「心地よさ」を実現するツアーの実証実験

その後、「新しい旅の兆し」の要素と「心地よさ」の要素を掛け合わせた「心地よさ」を実現するツアーを開発し、実証実験を実施しました。

【実証実験の概要】

・実施日:2022年11月5日(土)~6日(日)の1泊2日

・実施場所:山形県最上地域(現地集合、現地解散)

・参加人数:5人

・主なコンテンツ:

 ①自然を満喫する:幻想の森やサケの遡上など

 ②暮らしを体験する:現地で暮らしている方のご自宅での手料理・郷土料理作りや、地域での「雪囲い」設置など

【実証実験の結果】

ツアーへの参加のきっかけとなるには、場所に対しては「新しい発見や刺激的な発見ができる」、人に対しては「新しい体験や成長を通じて達成感を得られる」への関心が強くみられる。

<ツアーに参加したきっかけに関する参加者コメント>

・普通の⾃⼒の旅では経験できないことが出来そうだった。

・未知の体験をしようと思って来た。

実際の旅を通してより大切なポイントとして挙がってきたこととして、場所に対して「受け入れられることで長期的な関係性を築ける」、人に対して「自分のペースや価値観が尊重される」「存在意義を感じられる」という要素が大切なポイントとして挙がっている。

<ツアーで⼼地よさを感じたことに関する参加者コメント>

・実家感のあるところ、ここで寝れたらなあ、居⼼地がよかった。

・⾃⾝の実家を思い出した、近い距離感で話ができた。

地域と価値を与え合う「与価」で自分の“心地よい居場所”を見つけ、「心地のよい場所」 に「心地のよい状態」でいる「与価旅」が新しい旅の形になる。

従来の旅のように全ての旅行者が同じ形態で同じ価値を得るのではなく、旅先の土地に溶け込んで新たな発見をしつつ、共創を経てそれぞれ異なる価値と「心地よさ」を得ることが求められる傾向があります。地域と価値を与え合うことを「与価」とし、「与価」を通して地域と長期的な関係性を構築することができ、「心地のよい場所」 に「心地のよい状態」でいられる新しい旅「与価旅」が求められていると考えられます。

一方、そうした新しい旅の形を実現していくには、再現性や継続性、独自性など幾つかの課題も実証実験を通じて見えてきました。人材と旅行者とをつなぐプラットフォームの構築や、地域と旅行者の価値観をマッチングさせる仕組み、地域と地域の人を繋げる場づくりなど、新しい旅の形に対応する取り組みが今後より求められる可能性があることも、実証実験を通じてわかりました。

■有識者コメント:

株式会社おてつたび 代表取締役CEO 永岡 里菜 氏

おてつたびが目指す新しい旅の形と非常に近く、とても共感する内容です。情報が溢れている現代社会だからこそ、自分の大切にしている価値観に向き合える場やありのままの自分に立ち戻り自分らしくいられる居場所(第二・第三の故郷)を求めている方も増えているように感じます。また、これからの旅や旅行にも、関係人口という側面が大切になるとも思います。人を動かす力を持っている旅や旅行には、旅中で地域との関わりしろをどれだけ作れるかも今後テーマになってくるかと思いますので、共に地域との繋がりが生まれる旅のあり方を模索できればと思います。

【プロフィール】1990年生まれ。三重県尾鷲市(おわせし)出身。千葉大学卒業後、PR・プロモーションイベント企画制作会社勤務、農林水産省との和食推進事業の立ち上げを経て、独立。自分の出身地のような一見何もなさそうに見えてしまう地域に人がくる仕組みを創りたいと思い2018年7月株式会社おてつたびを創業。地域の短期的・季節的な人手不足で困る事業者(宿泊施設や農家等)と、「知らない地域へ行きたい!」と思う地域外の若者をマッチングするwebプラットフォーム『おてつたび』を運営。

國學院大学 井門 隆夫 教授

「余暇」から「与価」へ。人口増加と引き換えに江戸後期に失った、旅の本質への200年ぶりの回帰といえます。人口減少が続いた江戸時代、人々は徒歩で社寺へ祈願に赴き、傷んだ心身を湯治場に滞在して癒しました。その後、人口急増とともに経済が成長して余暇が芽生え、旅は不要不急の消費となりました。そして、再び人口減少が始まった現代。旅は、自分自身を見つめるための日常的な移動へと再定義されつつあります。いわゆるレジャーだけではなく、地域への滞在や多地域居住、移住まで。旅は地域の中に身を置いて自分の価値を高めていく目的へと変わりつつあります。まさに時代変化にのっとった現象といえましょう。

【プロフィール】1961年生まれ。東京都狛江市(こまえし)出身。上智大学卒業後、旅行会社とシンクタンクで勤務し、国内旅行の活性化や宿泊業の事業再生に携わる。2011年に大学に奉職し、関西国際大学、高崎経済大学を経て現職。新しい時代の観光やまちづくりに関わる学生を育成している。観光とは人口が流出する地域へと人口を還流する人口政策と考え、地域の社会課題を解決し、地域の拠点となっている国内外の宿泊業について研究している。

 

■今後の予定について

今回の実証実験の結果は、旅行者にとっての新しい旅の形だけでなく、地域が関係人口と関係構築する際のヒントも多く隠されています。同様の悩みを抱える地方自治体や課題解決に取り組んでいる観光関連事業者に役立つよう、今回の実証実験結果をテーマにしたイベントも開催する予定となっており、近日中に詳細を発表する予定です。

【プロジェクトチームからのメッセージ】

<TBWA HAKUHODO>

コロナ禍の観光業界で頑張る方のために、役立つガイドを作りたい。そんな有志を持ったメンバーが集まった『観光復興ガイド』プロジェクトの開始から3年が経ちました。この間、追求してきた新しい旅の一つとして、今回「与価」により心地よさを生むという形が見えてきました。そして、この与価を実現するために必要なのは、価値を与えるだけではなく外から来た人の価値を受け入れる余白があること。この余白は「旅行者が関与できる地域の課題」と言い換えることもできそうです。日本全国どこの地域も課題山積と言われていますが、今回見えてきた与価旅はこの課題を資源に変えるきっかけになるかもしれません。観光業界のみなさまにとって、今回の発見が少しでも取り組みのヒントになれば幸いです。(プロジェクト担当:田貝雅和、戸川凌)

<JTB総合研究所>

「心地よさ」を、実際の体験として作り上げることは、なかなか易しいことではありませんでした。でも、自分たちも旅行者の一人として、地域のみなさまと価値観を共有する中で、ありのままの自分が受け入れられることや喜んでもらえることのうれしさを実感することができました。従来の旅の形である「消費する・される」の関係性だけではなく、価値を受け入れ合うことは、これまで以上に旅を豊かなものにしてくれるのではないかと思います。私たちの研究が、少しでも地域の方々と旅行者をつなぐきっかけとなりますよう。(プロジェクト担当:山田晴子、宮崎沙弥、早野陽子、臼井香苗)

 

<雪と暮らし舎>

ツアーに参加いただいた方から、「一般的な旅には目的があって旅行するが、今回は人生の目的について考える旅になった」とお話しいただいたことが印象に残っています。最上地域は全域が特別豪雪地帯に指定されており、山形県内でも人口減少が著しい地域です。子どもが減り若者の都会への流出に歯止めがかからない状況にあって、「なにもない」と地元住民が言ってしまうのも珍しくはありません。そうしたなか、ツアー参加者は「昔ながらの雪国の暮らし」をそれぞれの視点で見つめ、体験し、それぞれの価値を見出していかれました。

人を喜ばせるのが大好きな一人暮らしの地元のおばーちゃんにはいつも通りの暮らしをシェアしてもらいましたが、自分の暮らしに興味をもって接してくれる都会の若者との交流を楽しみ、雪囲いの設置のお手伝いに喜んでいました。今回の受け入れが彼女の生き甲斐にも繋がっていればいいなと思います。

お金を交換することで、サービスを受ける者と提供する者という一方通行な構図が生まれてしまいますが、価値を交換する今回の旅にはお互いへの心地よいリスペクトがありました。今後も人口減少が進行する農山村では、消費者(観光客)に向けて対価としてのサービスを提供するのは難しくても、課題や暮らしそのものをお裾分けする与価旅であれば受け入れるための心理的なハードルを下げられるのではないでしょうか。潜在的な関わりしろを多く抱える最上地域や全国の農山村で、与価旅がひろがり新しい交流や関係が生まれていくことを期待してやみません。(地域コーディネート担当:梶村勢至)

■TBWA HAKUHODO(TBWA博報堂)について

2006年に博報堂、TBWAワールドワイドのジョイントベンチャーとして設立された総合広告会社です。博報堂のフィロソフィーである「生活者発想」「パートナー主義」とTBWAがグローバル市場で駆使してきた「DISRUPTION®︎」メソッドを中心とした独自のノウハウを融合。質の高いソリューションを創造し、クライアントのビジネスの成長に貢献します。「DISRUPTION®︎」は既成概念に縛られず、常識を壊し、新しいヴィジョンを見いだすTBWA HAKUHODOの哲学です。マーケティングに限らず、ビジネスにおけるすべての局面でディスラプションという新しい視点を武器に事業やブランドを進化させるアイデアを生み出します。 https://www.tbwahakuhodo.co.jp

また今回のプロジェクトをはじめ、「DISRUPTION®︎」をもとに社会の変化を共創するオープンイノベーションプロジェクト「Open Disruption®」にも取り組んでいます。

・「Open Disruption」についてはこちらよりご覧ください:https://www.tbwahakuhodo.co.jp/uploads/2023/06/230606_open-disruption_press-release.pdf

■JTB総合研究所について

株式会社JTB総合研究所は、2012年、株式会社JTBの創立100周年を機にツーリズムを通じ社会や地域の課題解決への貢献を目指してスタートしました(2001年設立のツーリズム・マーケティング研究所を母体として社名変更)。調査研究、コンサルティング、観光教育の事業を柱に、ツーリズムの枠組みにとらわれない新しい時代のシンクタンクとして、地域や企業の発展に貢献すべく、取り組みを進めています。 https://www.tourism.jp/

 

■雪と暮らし舎について

「雪国だから実現できる豊かな暮らしをデザインする」会社として、山形県真室川町の元地域おこし協力隊員2名が2022年2月に立ち上げた会社です。真室川町や山形県最上総合支庁より委託を受けて移住推進業務を担っているほか、雪国の豊かな暮らし文化を次世代に継承していくことを目的とした新しい経済循環のデザイン・創出、豊富にある森林資源を背景にした事業づくり・雇用創出にもチャレンジしています。2023年4月に地域食材にこだわったおはぎ店「雪のおはぎ*風花」を開業。 https://www.facebook.com/yuki10kurashi

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