【2023 News Letter Vol.4 】新しい観光のパラダイム ホスピタリティ「経営」という着眼

東洋大学のプレスリリース

2023 News Letter Vol.4
新しい観光のパラダイム
ホスピタリティ「経営」という着眼
東洋大学 国際観光学部教授 吉岡勉
 
東洋大学国際観光学部では、新しい観光の考え方・取り組みを連載で紹介する「新しい観光のパラダイム」を、2021年度から公開しています。コロナ禍が落ち着き、観光の復活が本格的に進められているこの時期に、観光産業・教育における新しい潮流を解説するコンテンツを、連載していきます。2023年度のテーマは「航空産業の復活」「文化観光と博物館」「コロナ禍における教育の再考」「ホスピタリティ「経営」という着眼」の4つです。東洋大学ではこれからも、変化に対応し、時代を切り拓ける人材を育成していきます。
 

世界的な視点での「ホスピタリティ」

 日本で「ホスピタリティ」というと、たとえば「おもてなし」「接客、接遇」「ホテル」「料飲(F&B)」「エアライン」「ブライダル」などを思いつく人が多いようです。しかし日本以外の国では事情が大きく異なります。つまり、どのような産業分野か、あるいは接客や接遇、サービスそのものという着眼ではなく、大学における「ホスピタリティ hospitality 」の研究や教育といえば「経営 business administration 」「マネジメント management 」を意味します。
 あるツーリズムとホスピタリティの研究を対象とする国際学術カンファレンスに参加した際、そこで知り合った様々な国の参加者と初対面の挨拶をするときのことです。「ツーリズムとホスピタリティ、どっち?」と尋ねられ、「ホスピタリティ」と答えると、次は決まってこう尋ねられました。「人材? マーケティング? 会計? ファイナンス? どれ?」。私はもちろん「管理会計とファイナンス」と答えました。
 つまり、世界の視点における「ホスピタリティ」は、「ホスピタリティ「経営」」を意味します。他国が正しくて日本が間違っているというつもりはありません。しかし、これが実態であるということを、知っていただきたいのです。
 

ホスピタリティはビジネスであり経営

 今年(2023年)5月に私のゼミがジョイントセッションを実施したChaplin School of Hospitality & Tourism Management, Florida International Universityのウェブページには、「Hospitality means business」(ホスピタリティはビジネスである)と記載されています*。
* https://hospitality.fiu.edu/programs/undergraduate/ (2023年7月27日アクセス)
 

 
 そしてこの大学に限らず、多くの他国の「ホスピタリティ」を冠する大学のカリキュラムを調査すると、「経営」「マネジメント」に関する科目が数多くリストアップされています。
 たとえば国際的な大学ランキングにおいて、ホスピタリティ分野の大学でアジア地域のランキング上位にいつも入っている The Hong Kong Polytechnic University (香港理工大学)の School of Hotel & Tourism Management のカリキュラムにも “Accounting and Control in Hospitality, Tourism and Event”, “Financial Management in Hospitality, Tourism and Events”,  “Managing Organizations in Hospitality, Tourism and Events”, “Managing Human Resources in Hospitality, Tourism and Events”, “Food and Beverage Management”, “Revenue Management”, “Hospitality Asset Management” といった、会計、ファイナンス、組織マネジメント、人材マネジメント、料飲マネジメント、レベニューマネジメント、資産管理など、経営やビジネスにフォーカスした科目が列挙されています。
 

ホスピタリティ「経営」を担う人材の育成 

 他の国々のホスピタリティ産業では、大学卒や大学院卒の人材には現場経験というよりも、バックヤードや本社オフィスなどマネジメント(経営管理)分野を採用の初期から担当させるケースが少なくないようです。一方で、日本のホスピタリティ産業において、新卒採用で入社した新入社員には、まず現場を数年間経験させるのが一般的です。この慣行は、なかなか変えられないでしょうし、やはりこれも他国が正しいとは言いきれません。しかし、せっかく大学の数年間で学んだホスピタリティ経営に関する知識を活用する機会が入社後すぐにあるのか、数年間の現場経験の後にあるかもしれないのかでは、その従業員の業務に対するモチベーションへの影響が変わると推測できます。
 適材適所という言葉があります。大学卒の従業員であっても、現場でのサービス提供に向いている人材がいることは確かですし、ホスピタリティ経営について学んでいない人もいるでしょう。しかし確実に言えることは、マネジメントについてしっかり学んだ大学卒の従業員がいるということです。東洋大学国際観光学部のカリキュラムではそれらの科目が数多くあり、多くの学生が履修しています。会計に関する科目を設置していることから実際に当学部の卒業生のうち何人も、入社時から予算編成業務に従事する者がいます。従来通りの「まずは現場」との固定観念がベストなのかどうか、また、それぞれの企業にとって人材を見極めながら活用することが必要ではないかと考えています。
 本学の国際観光学部では、引き続き、ホスピタリティ「経営」を担う人材の育成を行っていきます。
 

 
吉岡 勉
東洋大学国際観光学部 教授
専門分野:経営学 会計学
研究キーワード:ホスピタリティ経営 ホスピタリティ管理会計
        統合型リゾートのマネジメント サウナツーリズム

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