観光産業の最新景況レポート(2024年8月)
株式会社帝国データバンクのプレスリリース
秋の行楽シーズンを迎えた。2回続く2024年9月の3連休には、全国の観光地が盛況になることが見込まれている。2023年5月に新型コロナウイルスが5類へ移行して以降、国内の観光産業では、2024年の各指標がコロナ禍前の2019年を上回る推移を見せている。能登半島地震の発生、7月の大雨など自然災害が続いたほか、8月8日に発生した日向灘地震に端を発した1週間に及ぶ「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」の影響などの不安要素も抱えているものの、インバウンド需要が下支えしている。
観光産業[1]の景況感はどのように変化しているのか、取り巻く環境や景気DIの動きを分析した。
[1] 観光産業は非常にすそ野が広く、特定の業種分類として表すことは困難であり、個々の産業に関する統計整備にとどまる。そこで、本レポートでは、UNWTO(世界観光機関、World Tourism Organization)が示している国際基準である TSA(旅行・観光サテライト勘定、Tourism Satellite Account)において観光産業(Tourism Industries)に分類されている業種に基づき、観光産業として定義した
【景気動向指数(景気DI)について】
■TDB景気動向調査の目的および調査項目
全国企業の景気判断を総合した指標。国内景気の実態把握を目的として、2002年5月から調査を開始。景気判断や企業収益、設備投資意欲、雇用環境など企業活動全般に関する項目について全国2万7千社以上を対象に実施している月次統計調査(ビジネス・サーベイ)である。
■調査先企業の選定
全国全業種、全規模を対象とし、調査協力の承諾が得られた企業を調査先としている。
■DI算出方法
DI(ディフュージョン・インデックス〈Diffusion Index〉)は、企業による7段階の判断に、それぞれ以下の点数を与え、これらを各選択区分の回答数に乗じて算出している。
観光DI、2023年3月から18カ月連続で全産業の景気DIを上回る
帝国データバンクが毎月実施しているTDB景気動向調査で算出した観光DI[1]の推移を見ると、政府が「2023年5月に新型コロナウイルスの感染法上の位置付けを5類に移行する」と発表した同年1月以降、上昇基調に転じ、その後、同年3月から2024年8月まで、18カ月連続で全産業の景気DIを上回った。
実際に5類に移行した同年5月の観光DIは49.9を記録し、その後は多少の揺れ幅はあったものの、インバウンド需要を背景に48台で推移した。
2024年1月の能登半島地震による一時的な自粛の動きなどから45.8にダウンしたものの、その後石川県を対象とした観光促進策や、底固いインバウンド需要に支えられ、2024年8月の観光DIは47.2(前月比1.6ポイント増)と2カ月連続で改善した。
足元の動きに対して、企業からは「インバウンド需要は好調」(飲食・北海道)などの前向きな声がある一方、「南海トラフ地震臨時情報で最繁忙期の集客に大きなダメージがあった」(宿泊・和歌山県)、「インバウンドの効果は地方では少なく限定的」(宿泊・福島県)、「夜間の人出が少なく、コロナ禍以前の水準に戻らない」(飲食・新潟県)など地域によって違った声が聞かれる。
[2] 観光DIは、注1で分類した観光産業に属する企業の景気判断を総合した指標。観光DIは0~100の値をとり、50より上であれば景気が「良い」、下であれば「悪い」を意味し、50が判断の分かれ目となる
増加する訪日外国人客数を背景に、強いインバウンド需要
日本政府観光局(JNTO)が発表した「訪日外国人客数」によると、2024年の訪日外国人客は1~7月までの合計が2107万人に達し、前年同期の1303万人を上回った。通年で前年を超えるのは確実と見られ、そのペースはコロナ禍前の2019年をも上回っており、国内の観光産業を牽引しているといわれる。
他方、「主要旅行業者の旅行総取扱額」(観光庁)の内訳を見ると、2023年度の「国内旅行」は2兆3559億円とコロナ禍前の2019年度に迫ったものの、「海外旅行」は1兆699億円と、円安や物価高の影響などにより回復が遅く、コロナ禍前の2019年度に大きく及ばなかった。
2024年度に入ってからも、「海外旅行」の回復は鈍く、物価高による節約志向や天候などの環境要因、人手不足などの影響で「旅行総取扱額」の2024年4~6月の累計総額は、前年同期を7.1%上回るにとどまり、通期でもコロナ禍前の2019年度を上回るには厳しいペースにある。
インバウンド需要を背景に観光DIは全産業の景気DIを18カ月連続で上回っているが、多少の円高が進んだことでマイナスの影響が懸念される。人手不足やオーバーツーリズムなどの経営課題に対処しながら、新たな旅行需要を掘り起こす必要がありそうだ。