飛騨市宮川町の遺跡から出土した石棒や工具類が国重要文化財に指定答申。素材産出地から製作過程まで一括して判明する稀有な資料です。市美術館では4月22日まで、指定予定の本物を間近で見られる特別展を開催中。
岐阜県飛騨市のプレスリリース
岐阜県飛騨市(市長:都竹淳也)は、市内に所在する島遺跡および塩屋金清神社遺跡から出土した石棒や縄文土器など377点が、文化審議会により国の重要文化財(美術工芸品)に指定するよう文部科学大臣に答申されたことをお知らせします。 今回の指定で 、飛騨市では、国指定文化財としては11件目、国重要文化財(美術工芸品)としては「岐阜県中野山越遺跡出土品」(平成8年)に次いで2件目になります。
「石棒の聖地」としての価値
飛騨市宮川町に位置する島遺跡・塩屋金清神社遺跡は、縄文時代の代表的な祭祀遺物である「石棒」の製作痕跡を鮮明に残す稀有な遺跡です。近傍で採取される溶結凝灰岩(通称:塩屋石)を素材とし、約4,500年前(中期)から3,500年前(後期・晩期)にかけての石棒製作のプロセスが、未成品や工具類(敲石・砥石)とともに一括して出土しました。
今回の答申では、素材の産出地が特定されている点に加え、石棒の形態が大型から小型へと変遷する過程を体系的に示す「基準資料」としての価値が極めて高いと評価されました。
本指定の主なポイント
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指定数量
377点
【本指定】284 点 石棒 171、工具類113(敲石 83、砥石 30)
【附(つけたり)】93 点 剥片 24、原石 11、縄文土器・土製品 53、その他の石器 5
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石棒製作工程の完全な可視化
「剥離(はくり)」「敲打(こうだ)」「研磨(けんま)」という製作段階ごとの資料が揃っており、当時の高度な加工技術や、火を用いた特殊な工程の存在が明らかになりました。
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広域な文化交流の裏付け
北陸、信州、関東、そして西日本系の特徴を持つ縄文土器が共に出土。飛騨が古くから日本各地を結ぶ文化交流の十字路であったことを証明しています。
重要文化財になる意義
飛騨市教育委員会では、令和5年度から3ヶ年をかけて調査を行ってきました。
縄文時代の代表的な祭祀用具である石棒の製作過程が資料から読み取れることで、製作技術を理解することができます。それが縄文時代中期の4,500年前から後期の3,500年前の変遷が明らかになり、石棒製作の具体的な方法や形態の変化を体系的に示した基準資料となります。この高い学術的価値は、今後の縄文時代研究に大きく寄与する可能性を持っています。
一方、石棒自体はどのように使われたのか未だ謎に包まれていますが、製作工程が分かる資料が国の重要文化財に指定されて将来にわたり保存されることで、今の段階では解決できていない「謎」に、今後いつでも迫ることができるようになります。このため、石棒の指定は、謎そのものに迫る第一歩ということができます。
主な出土品と特徴
島遺跡では2008年以降、塩屋金清神社遺跡では1973年以降、発掘調査が行われてきました。飛騨市ではこれまで、島遺跡で737点、塩屋金清神社遺跡で890点の出土品の報告を行ってきました。そのうち、塩屋金清神社遺跡出土品252点は、平成9年7月29日に岐阜県重要文化財に指定されました。今回は、その中から、島遺跡出土品51点、塩屋金清神社遺跡出土品326点が指定されます。
島遺跡の出土品
1. 多様な土器の出土
•北陸の影響を受けた縄文土器が最も多く代表的です。
•中期の終わりには、信州や関東の影響がある土器が出始めました。
•これにより、広い範囲の文化が交流していた可能性が示されました。
2. 中期の石棒の製作過程の解明
•中期の石棒の特徴は直径10㎝以上と大きいことです。
•その製作は、「剥離」「敲打」「研磨」の3段階で行われていました。
•傷や破断面の赤化から、火を使った加工や廃棄の可能性があることも判明しました。
•石を加工するための敲石や砥石など、製作に使われた工具も多数発見されました。
3. 縄文時代中期の飛騨と他地域とのつながり
•飛騨地域や富山県を中心とした北陸地域に作られた石棒が運ばれました。
•石棒の分布域が、北陸系土器の多さと合致し、当時の北陸との繋がりの深さを示すことができました。
塩屋金清神社遺跡の出土品
1. 土器文化の特徴
•中期に続き、後期の始めは北陸系と関東系の縄文土器が主体となります。
•後期の中ごろになると、北陸系と関東系に加え、西日本系の縄文土器も加わります。
•後期の終わりになると、再び北陸系の縄文土器が主体になります。
2. 石製品の製作過程と多様性
•石棒の製作は原石、剥離、敲打、研磨の各段階が確認されただけでなく、敲打を行わずに剝離の後に研磨を行うなど、多様な加工方法を確認しました。
•多くは厚さ5cm前後の小型の石棒です。
•出土した石棒は、東北・関東地方の小型石棒の代替品・模造品とされるタイプに分類されます。
•石剣や石刀の刃部破片、石冠や御物石器の完成品も出土し、石棒だけでない石製品製作の多様化があります。
3. 工具類の出土と加工技術
•敲石は4種類に分類され、製作段階に応じた使い分けが推測されます。
•作った時に発生した小さな石のカケラも確認されました。
4. 縄文時代後期の飛騨と他地域とのつながり
•分布は飛騨市と富山県域にとどまらず、南の高山市や郡上市にも及んでいます。
•多様な系統の縄文土器が出土していることと整合し、広域的な交流があったことを裏付けています。
飛騨市では2つの実際に石棒が見られる企画展示を開催中!
街なかポケットミュージアム「ポケット石棒展」
・期間:現在開催中~5月31日(日)
【開館時間】10時00分 ~ 16時30分(3月までは16時00分まで)
【休館日】木曜日
・会場:飛騨古川さくら物産館蔵ホール内 街なかポケットミュージアム
(岐阜県飛騨市古川町三之町2-20)
・入館料:無料
※展示品は、指定以外のものです
飛騨市美術館「もうひとつの石棒展」
・期間:現在開催中~4月22日(水)
【開館時間】9時00分~17時00分
【休館日】月曜日
・会場:飛騨市美術館 第2展示室 (岐阜県飛騨市古川町若宮2-1-58)
・入場料:無料
※展示品は全て国重要文化財に指定されるもの
市民と行政が一体となった保存活用 へ
全国の縄文ファンやクリエイター、研究者などが「石棒」を介してつながるコミュニティ「石棒クラブ」や、地元の宮川小学校児童によるボランティアガイドなど、地域住民が主体となってこの歴史遺産を愛し、守り、活用してきた活動を進めています。また、24時間世界中いつでもどこからでも文化財にアクセスできるように、飛騨市の主要文化施設をバーチャル空間で公開しています。
コメント
飛騨市長 都竹淳也
石棒を含む縄文時代の資料は、宮川村時代に調査されて以来、飛騨みやがわ考古民俗館で守られてきました。近年では、市の関係人口プロジェクト「石棒クラブ」による活用事業が全国的に注目され、それに呼応するように地元の宮川小学校児童が自発的にガイドとして活動し、飛騨市内外で石棒が大切にされる大きな動きが出てきました。このような動きは地域づくりの核心であり、歴史文化事業に取り組む意義そのものです。今回、この動きの一環として、石棒が国重要文化財に指定されることを、大変嬉しく受け止めています。今後も、石棒をはじめとした資料の持つ普遍的な価値を市内外に広く共有すべく活用し、未来へ継承できるよう保存していきたいと考えております。
飛騨市教育長 下出尚弘
石棒をはじめとする縄文時代の資料の調査事業は、令和5年度以降に取り組んできたものです。調査の結果、石棒の製作工程が明らかにすることができました。また、石棒づくりに使われる石器の多さから、多様な石製品の製作が行われていたことも判明しました。今回、年代を示す縄文土器とともに国の重要文化財に指定されることは、その価値が認められた証しであり、大変喜ばしいことです。ご協力いただいた皆様に感謝申し上げるとともに、今後も多くの方に愛されるよう、皆様と共に保存と活用に努めてまいります。
飛騨みやがわ考古民俗館 学芸員 三好清超
先輩方が調査・保存・活用されてきた出土品を引き継いだ私たちが、国重要文化財に指定して伝えることができることにほっとしています。また、調査研究を通じて飛騨市に貢献してくださる研究者の皆様、石棒に現代的意味を与え続けてくださる石棒クラブ活動に関わる皆様、そしてそれらを業務として任せてくださる飛騨市に感謝しています。さらに次世代へ継承するためには、人・意識・体制・制度・予算などが必要と考えています。今回の指定答申はその取組の一歩ですが、確実な継承を目指して引き続き力を尽くす所存です。
問い合わせ
飛騨市教育委員会 文化振興課
電話 0577-73-7496
岐阜県飛騨市
飛騨市は、人口約21,500人の小さな市で、周囲を北アルプスなどの山々に囲まれ、総面積の約94%を森林が占めるなど豊かな自然に恵まれたまちです。また、豊富な自然資源のほか、ユネスコ無形文化遺産である古川祭・起し太鼓、ノーベル物理学賞の受賞に寄与した「スーパーカミオカンデ」を始めとする宇宙物理学研究施設、大ヒットアニメ映画「君の名は。」のモデル地となった田舎町の風景など、多彩で個性豊かな地域資源の宝庫です。
飛騨市公式サイト https://www.city.hida.gifu.jp/
飛騨市の文化財 https://hida-bunka.jp/
PRTIMES飛騨市ページ https://prtimes.jp/main/html/searchrlp/company_id/120394