外国人観光客と日本人観光客が切り取る、それぞれの鎌倉

―SNS投稿分析から導く視点の違い―

株式会社JTB総合研究所のプレスリリース

 同じ場所を訪れても、人によって「見えている景色」は異なることがあります。イギリスの社会学者ジョン・アーリが著書『観光のまなざし』において、「観光客はただ物理的な対象として風景を見ているのではなく、社会的な背景から見たいと期待しているものに目を向けている」と述べたように、異なる背景を持つ外国人観光客と日本人観光客が同じ地域で見た景色を比較することで、その地域が持つ新たな魅力や情報の伝え方を再発見できるのではないか?

 そのような仮説のもと、株式会社JTB総合研究所(東京都港区 代表取締役社長執行役員 風間 欣人)は、SNSに投稿された鎌倉観光の写真から、それぞれの色味や被写体、画角などの分析を行い、「外国人観光客と日本人観光客が切り取る、それぞれの鎌倉」としてまとめました。


【調査結果のポイント】

・鎌倉を、外国人観光客は「青緑の寒色系」、日本人観光客は「オレンジや黄みの暖色系」の画像として切り取る

・同じ「青緑の寒色系」でも「欧米豪」の被写体は「大仏」、「アジア」は「聖地」が多く、国・地域で特徴が異なる

・外国人観光客の被写体は「風景」、日本人観光客の被写体は「グルメ」や「自撮り」が多い傾向

【調査概要】

調査方法: Instagramに投稿されている画像の特徴を分析(複数枚投稿されている場合は、1枚目を抜粋)

対象者:  鎌倉を観光で訪れた人の投稿(#鎌倉、#kamakuraで上位表示されたもの)

      外国人観光客:200名(欧米豪:100名、アジア:100名)、日本人観光客:200名

調査時期: 2025年9月〜11月

調査担当: 株式会社JTB総合研究所 早野 

実査:   株式会社Newka


【調査結果】

I 外国人観光客と日本人観光客が切り取る鎌倉

(1) 鎌倉は、外国人には青や深緑を含む寒色の、日本人にはオレンジや黄みが強い暖色の色味の印象が強い

 外国人と日本人それぞれ200枚の写真をすべて10%に透過し重ね合わせて全体の色味の傾向を分析したところ、下図のような結果となり、全く異なる色味であることがわかりました(図1、2)。

(2) 色味の主な違いは被写体の違い。外国人は「大仏」、日本人は「グルメ」の写真がそれぞれ約半数を占める

 外国人では「大仏」が53.5%を占める一方、日本人において大仏は5.5%に留まりました。また、日本人で最も多かった「グルメ」の写真は全体の49%を占めていますが、外国人においては1枚も見られませんでした(図3)。

 日本人の「グルメ」の内訳を見ると、食事は34.7%、スイーツは46.9%、店構えを映したものが18.4%でした。さらに内容を見ていくと、和食が最も多く23.5%、次いで洋スイーツと店構えが18.4%、和スイーツが16.3%、洋・中・エスニックの食事が11.2%となりました。同じ店の同じメニューが映された投稿も多く見られています(図4)。

(3) 「聖地」は外国人観光客にも、日本人観光客にも人気

 観光客にも人気のローカル線“江ノ電”の駅では、外国人観光客は「鎌倉高校前」、日本人観光客は「極楽寺」の画像が多くみられました。どちらも漫画やドラマの聖地巡礼スポットとして知られている場所です。

 「鎌倉高校前」では駅横の踏切の写真が多く見られ、外国人では7.5%を占め、日本人では1%に留まっています。「極楽寺」では駅舎を映した写真が日本人では1.5%ありましたが、外国人では一枚もありませんでした。どちらも漫画やドラマの舞台になった場所ですが、国によって人気の作品が異なり、旅のきっかけや目的の違いが現れた結果であると考えられます。「鎌倉高校前駅」はバスケットボールをテーマとした漫画の舞台となっており、1990年代に出版された作品や2025年に上映された映画はアジアを中心に海外でも翻訳・公開され、人気です。また、「極楽寺」は2012年からシリーズ化されたテレビドラマの舞台で、2025年の最新作も話題となったことも影響していると考えられます。

(4) 日本人観光客は、「自撮り」の写真が15%と、外国人観光客の3.5%と比較して高い

 日本人は、「自撮り」の写真が15%を占め、大仏の5.5%や寺社仏閣の16.5%を上回るか同程度に多くみられます。観光地よりそこで楽しむ自分にフォーカスした画角で撮影されていることが特徴と言えます。さらに着物を着た自分の写真も5.5%となり、その土地の雰囲気を楽しむための工夫している様子が伺えました。外国人においても着物を着た写真はあったものの、後ろ姿の写真1枚のみでした。

(5) 同じ「寺社仏閣」でも、外国人観光客と日本人観光客では、着眼点が異なる

外国人観光客は「山門の提灯」や「献上された酒樽」、日本人観光客は「お堂」が多い

 外国人観光客と日本人観光客の両方で、同じ割合の投稿がみられた「寺社仏閣」の内容を詳細にみてみると、外国人観光客では「山門の提灯」や「献上された酒樽」が多く、どちらも漢字が書かれていることや提灯や日本酒の酒樽というモチーフに日本らしさを感じているのではないかと推察できます。一方、日本人観光客では「お堂」の割合が多く、寺社においても「喫茶」の写真があったことは興味深い点です(図5)。

Ⅱ 欧米豪からの観光客とアジアからの観光客の比較

(1) 同じ「青緑の寒色系」でも「欧米豪」の被写体は「大仏」、「アジア」は「聖地」が多く、国・地域で特徴が異なる

 欧米豪の観光客100人とアジアの観光客100人が投稿した写真をそれぞれ10%に透過し重ね合わせたところ、下図のような結果となりました。色合いはどちらも青字に深い緑や黒が入ったような寒色系の色合いですが、欧米豪は上部まで濃色が来ている一方、アジアでは上部は明るい青みがかった色のみになっています(図6、7)。

(2) 色味の違いは被写体の違いから。欧米豪では大仏、アジアでは江ノ電や鎌倉高校前での写真が多い

「大仏」は欧米豪の70%の人が投稿していますが、アジアでは37%に留まっています。一方、「江ノ電」や「鎌倉高校前駅」は欧米豪では2%、0%ですが、アジアでは30%、15%となりました(図8)。欧米豪の旅行者は、日本らしい歴史文化の写真、アジアの旅行者は、親しんでいるマンガやドラマの聖地に惹かれる傾向があると考えられます。

(3) 同じ「大仏」でも撮り方に差はあるのか?

 撮る角度は、欧米豪、アジアで大きな差はなく、正面が約半数を占め、左右比は多少差があるがほぼ二分されています。被写体は、欧米豪は自分ありとなしの写真がほぼ半々でしたが、アジアでは自分を入れた写真が65%を占め、欧米豪より多くみられます(図9)。アジアの旅行者の方が、自撮りが多い日本人と比較的近い撮り方をしていると考えられます。

Ⅲ まとめ

(1) 観光地としての鎌倉の切り取り方は、国や地域によって異なる

 外国人観光客と日本人観光客では、鎌倉の観光地としてのとらえ方(景色)が異なり、さらに外国人では、地域別にも差がありました。例えば、欧米豪、アジア、日本のそれぞれに映る鎌倉を一枚の絵で表すと、下記のようなイメージとして描けます(生成AIで作成したイメージ)。一口に「訪日外国人旅行者」とはいえ、それぞれの国や地域の文化的な背景によって、旅行の目的は大きく異なります。例えば、聖地巡礼は国や地域によって、人気作品が異なることから、作品別のモデルコース・案内表示などの動線づくりや発信なども求められると考えられます。それぞれの地域のターゲットが叶えたい体験に応じたビジュアル戦略や、パーソナライズされた体験設計で、情報発信を最適化していくことも効果的ではないでしょうか。

(2) 国内外で知られていない“他国・地域の人気体験”を相互に紹介することで新たな需要を創出

 外国人と日本人は異なる特徴を持つというだけではなく、裏を返すとそれぞれの特徴を言えるほど、各属性の中では非常に近い投稿がされていました。ある投稿はまた同じような別の投稿を促し、どんどん似た投稿が増えていくというSNSをはじめとするアルゴリズム化された現代の特徴が顕著に見られるといえます。これが特定の場所に人が集中してしまうオーバーツーリズムの一因ともなっているのかもしれません。

 一方、ある国や地域では盛んに投稿されているが、別の国や地域であまり投稿されていない楽しみ方があることもわかりました。観光地に関する情報発信にあたっては、それぞれの国や地域の旅行者の目を引く画像を含めた情報で興味・関心を喚起しつつ、他国や他の地域の事例(楽しみ方)や、行きたいと思っている場所と同じような雰囲気や楽しみ方ができる別の場所や、同じ場所でも異なる時期や時間などの情報を積極的に提供することで、より多様で豊かな体験を提供できると同時に、観光客の分散化につながる可能性が考えられます。

 例えば、グルメの情報や着物体験など、日本人観光客の間ではよく行われていることを、外国人観光客にも伝えるなど。また、Z世代を中心に、現地の生活に触れたい、と言った意識が高いことから、情報を伝える際には、各国や地域の人々が楽しんでいる投稿、つまり「生の姿」を通じて届けることも有効と考えられます。


Ⅳ 番外編 外国人観光客の目を惹く、意外な風景

 ここまでは、メインとなる投稿1枚目の画像を分析してきましたが、2枚目以降も見てみるといわゆる観光スポットとは異なる面白い着眼点を見つけることができました。

 例えば、「自動販売機」を写真に収めている人が幾人も見られました。一般社団法人日本自動販売システム機械工業会のホームページによれば、「絶対数ではアメリカが世界一で658万台(2012年末)が普及しています。しかし、人口や国土面積を勘案した普及率では、日本が世界一と推測されます」とあるように、日本は自販機大国です。こんなところにまで設置されているという驚き、冷たい/温かい飲み物の設定や景観を崩さないよう配慮されているホスピタリティ、破壊やイタズラなどもされずに管理されている治安の良さなどが外国人にとって珍しく映っているのかもしれません。

機能的な役割を果たしているものにも別の魅力を感じているようで、道路に設置されている「カーブミラー」には自分を映して楽しんでいる姿が見られました。海外ではカーブミラー自体が珍しいということもあるようですし、写りが鮮明で綺麗なことも魅力の要因と考えられます。また、デザインされたマンホールやピクトグラムやイラストを使った案内も目を惹くもののようです。

また、街中で隙間から見える海や電車も写真に収められていました。住宅や交通機関、自然が入り組んで存在している鎌倉の環境の中、目の前に不意に現れた素敵な景色を、宝物を見つけるような感覚で切り取っているのかもしれません。


【お問い合わせ】

株式会社JTB総合研究所 経営企画部 広報担当

問合せフォーム:https://www.tourism.jp/contact/

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